ベタ基礎ブームに至る背景(法律の整理)

 木造住宅は、どこの建築業者も「ベタ基礎標準」、「基本はベタ基礎」と謳っているようにみえます。さらには、「布基礎はもう古い、今はベタ基礎の時代!」、「未だに布基礎の建築業者は技術力がない」など、とんでもないことを言い出す建築業者もいます。

4号建築物(建築基準法第6条第1項第4号 2階建て以下の一般的な木造住宅)

 どうしてこのような状況になったのでしょうか・・・。そこには、構造計算をしない4号建築物(建築基準法第6条第1項第4号 2階建て以下の一般的な木造住宅)を手掛けている建築業者の構造に関する無知と、地盤業者への圧力があると思います。
 1990年代、木造住宅の基礎は「布基礎」がメインでした。時々、地盤が軟弱な場合は「ベタ基礎」を採用していました。とは言っても、地盤調査を行う業者も少なく、軟弱地盤の判定は地域の地盤状況や経験値によることが多いようでした。

「10年間の瑕疵担保義務化」

 2000年、品確法が施行されます。品確法の柱のひとつである「10年間の瑕疵担保義務化」は、請負業者等に雨漏り、構造上の瑕疵を10年間補修する義務を負わせるもので、地盤の沈下も瑕疵に含まれています。その影響で、地盤調査を行う建築業者も増え始めました。

平成12年建設省告示第1347号

 2000年には、建築基準法の改正もあり、関連告示である平成12年建設省告示第1347号が施行されました。この告示は基礎に関連する告示で、地盤の長期に生じる力に対する許容応力度(以下、地盤支持力)と基礎形状の関係が規定されています。


 地盤支持力と基礎形状の関係は、地盤調査結果から基礎形状を選択する目安になります。ここで注意することは、想定している建物の規模が明確ではないということです。当然のことですが、最終判断には建物の基礎形状による接地圧(建物重量/基礎底版面積)の算出が必須です。建物重量は建物の規模、使用材料や仕上げ材による固定荷重、用途による積載荷重、地域による積雪荷重で違ってきます。更に、ベタ基礎の接地圧は、耐圧版ごとに算出します。
 地盤に関しては、スクリューウェイト貫入試験(旧スウェーデン式サウンディング試験、以下、SWS試験)の結果より地盤支持力(qa)は算出できます。しかし、この地盤支持力は告示式(平成13年国土交通省告示第1113号)、建築学会式、住品協式(住宅地盤業界団体)があり、自沈層の取扱いなど、地盤に関する知識なく安易に地盤支持力を算出することは危険です。
しかし、木造住宅は、これら基本的なことを理解せず、単に地盤支持力のみで基礎形状を決めている現状があります。

2009年、瑕疵担保履行法が施行

 2009年、瑕疵担保履行法が施行されます。この法律は、品確法の10年間の瑕疵担保義務化を履行するための「資力の確保」を目的としており、資力の確保の手段として、供託と瑕疵保険があります。この供託または瑕疵保険は義務化されていて、予め、かなりの供託金が必要な供託より、物件ごとに保険をかける瑕疵保険を、多くの建築業者は利用しています。瑕疵保険の利用には地盤調査が必須になるため、瑕疵担保履行法の施行とともに、木造住宅の地盤調査は標準化してきました。

ベタ基礎ブームに至る背景(地盤判定の闇)

 地盤調査とともに、当然ですが地盤判定が行われます。地盤判定とは、簡単に言えば、その地盤に計画している建物を建てることができるのかを判断することです。建物の重さで地盤は破壊しないのか、沈下しないか、液状化は発生しないのか・・などなど。地盤判定に必要なものは「地盤の状況」と「建物重量」です。
地盤の状況は、地盤調査結果でわかります。建物重量は構造計算により算出します。しかし、構造計算を行っていない4号建築物は、建物重量が不明確なので地盤判定はできません。しかし、地盤調査未経験、構造に関する無知な建築業者は、地盤業者に地盤判定を強要します。
 この地盤判定の強要とは、「建物の重量はわからないけど、計画している建物が、この地盤に建つかを考えろ!」という無茶な要求です。

告示第1347号

 そこで、地盤業者は告示第1347号の地盤支持力と基礎形状の関係より、布基礎であれば最低限30kN/㎡の地盤支持力が必要であることを前提に地盤判定を行います。その判定により、布基礎は地盤補強判定が出始めます。ここでまた、地盤補強も未経験の建築業者は、地盤補強の重要性を理解せず、地盤補強に当てる予算なしという理由から、地盤補強を無くすことまで強要します。
このような無茶苦茶な状況で、地盤業者が出した答えは、告示第1347号より、「ベタ基礎であれば、地盤支持力20kN/㎡のため、地盤補強無しとなる(可能性が高い)」でした。ここから、木造住宅はベタ基礎が一気に広がりました。まさにこれがベタ基礎ブームの始まりであり、今もなお続いています。

過度な地盤補強の否定がビジネス

 地盤が軟弱な場合、建物を支持させるためには地盤補強が必要となります。建物を支持させることのできる支持層の深さにより、表層改良、柱状改良、PC杭、鋼管杭、置き換え等を選択することになります。予算により安易に地盤補強工法を選択できるものでもなく、地盤補強必要と判断された地盤で、地盤補強を無くすことはあり得ないことです。
 しかし、一部の建築業者は、地盤業者に地盤補強判定を覆すような要求を日常的に行っています。この、地盤補強を無くしたい要求をビジネス上のニーズと捉え、地盤補強判定となった地盤調査を再度判定し、地盤補強を無しの判定に覆すビジネスも発生しました。
 一見、違う目線で再度判定することは、精度の高い判定のように思われますが、再判定の目的が「地盤補強を無くす」ことなので、その方向で再判定することになり、大半の地盤判定は覆されます。
 では、地盤補強判定を覆すことによる沈下リスクはどう考えるのか?
 ここに、地盤保証がリスクヘッジのごとく充てがわれます。
 本来、地盤保証は、正しい判定、正しい地盤補強工事によるリスクヘッジのはずが、地盤保証があるので(地盤補強工事をしなくても、そこに今、お金をかけなくても)沈下事故が起きてしまったら保証費用で沈下修正しましょう!このような風潮もあります。
 また、地盤業者によっては、「弊社の地盤補強判定率(地盤改良率)は○○%です」などと、おかしなことを売りにしています。
 このように、ベタ基礎ブームの到来とともに、木造住宅の地盤は、(一部で)おかしな方向に進んでいるようです。

■筆者 プロフィール
株式会社M’s(エムズ)構造設計
代表取締役社長 佐藤 実
一級建築士、構造設計一級建築士、農学修士(木質構造建築物基礎構法)、性能評価員ほか「構造塾」の運営(構造計算研修、相談窓口など)
構造塾には、木造住宅の構造計算や最新情報を学ぼうと全国の工務店・設計事務所、プレカット工場などが集まっている。またネットで「構造塾チャンネル」も好評。

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