地震による住宅被害が頻発する今日。木造住宅の耐震性向上のための構造と構造計算普及のために活動している「構造塾」主宰・佐藤氏。今回は1月1日起きた能登半島地震を現地調査した第1報です。建物の耐震性の重要性をあたらめて伝えています。

能登半島地震を現地調査

 2024年1月1日の発生したM7.6(最大震度7)の能登半島地震から4週間、1月30日に富山県小矢部市、かほく市、1月31日に能登半島の輪島市に行ってきました。主な目的は、木造住宅の耐震性能の確認です。
 木造住宅の耐震性能確認は目視調査に加え、微動探査による家屋の耐震性能実測を行いました。建物や地盤は人が感じないレベルでわずかに揺れています。この揺れは常時微動と呼ばれています。微動探査は、この常時微動を計測し、建物と地盤の固有振動数から建物の耐震性能と地盤による地震力の増幅具合、建物と地盤の共振の可能性など確認します。

被害地で、地盤の計測・家屋の計測を実施

微動探査による家屋の耐震性実測
微動探査による家屋の耐震性実測

 微動探査による家屋の耐震性能実測とともに、輪島市内の被害状況を調査しました。木造住宅の倒壊被害がどこまでも続く状況でした。2016年に発生した熊本地震の現地調査も行いましたが、能登半島地震の被害は、熊本地震よりも遥かに広範囲といえます。

建物倒壊の状況

道を塞ぐ倒壊した建物

建物倒壊は、住人の被害だけではなく「道を塞ぐ」被害が多く見られます。もし、人が歩いていたら巻き込まれます。また、避難、救助を妨げます。建物倒壊は、住人だけではなく周囲を巻き込む事があります。輪島市内では、建物倒壊により道が塞がれている場所がいくつもありました。

建物崩壊により道が塞がれる

ブロック塀の倒壊

ブロック塀の倒壊

 輪島市内には、ブロック塀の倒壊も多数ありました。無筋のブロック塀は耐震性能がないため倒壊します。ブロック塀の倒壊は、人が巻き込まれたその瞬間は注目されますが、すぐに忘れ去られます。そしてまた、無筋のブロック塀はつくり続けられています。

鳥居、石灯籠の倒壊

鳥居、石灯籠の倒壊

 神社の鳥居、石灯籠の倒壊もみられました。能登半島地震発生直後、神社で石灯籠が揺れるけれど倒れなかった動画が拡散され、石灯籠などは伝統技術で倒壊しない!などの誤解が広がりました。鳥居や石灯籠の耐震性能は高くはありません。

液状化現象

各所で見られた液状化

 輪島市での多くの液状化現象がみられました。輪島市は地形に高低差がみられないため、内灘町や新潟市西区のような液状化による側方流動はみられませんでした。主な液状化被害は、地盤の沈下と墳砂です。

土砂くずれ

土砂災害

 輪島市に向かう山間では、土砂崩れが多数見られました。土砂崩れに巻き込まれた木造住宅も多く見られ、今もなお行方不明者の捜索滑動が続けられていました。
 防災の視点で考えるとき、耐える、逃げる、住まないは重要です。地震や台風による倒壊被害などは構造計算で「耐える」木造住宅を設計できます。しかし、津波や土砂災害は、いくら構造計算を行っても「耐える」木造住宅を設計することは難しく、「逃げる」必要があります。そのため、速やかに逃げることができるよう、耐震性能は重要となります。「逃げる」必要のある津波や土砂災害からの最大の防御は、危険地域に「住まない」という選択です。長年住んでいる場所を移動するのは簡単なことではありません。しかし、事が起こってからでは遅いこともありますので、「住まない」という防災も真剣に考えて欲しいと思います。

■筆者 プロフィール
株式会社M’s(エムズ)構造設計
代表取締役社長 佐藤 実
一級建築士、構造設計一級建築士、農学修士(木質構造建築物基礎構法)、性能評価員ほか「構造塾」の運営(構造計算研修、相談窓口など)
構造塾には、木造住宅の構造計算や最新情報を学ぼうと全国の工務店・設計事務所、プレカット工場などが集まっている。またネットで「構造塾チャンネル」も好評。