長崎県佐世保の再生棒鋼や港湾土木関連鉄筋加工の老舗企業・西日本鋼業は5年前に地元企業のМ&Aで経営が変わった。昨年銀行出身の西山氏が社長となり陣頭指揮を取ってきた。九州地区も厳しい環境だが、今年10月には大牟田工場を稼働させる。西山社長に話を聞いた。
JHR会員うちの会社インタビュー 語る人
西日本鋼業工業株式会社・代表取締役 西山寛 氏
「JHR会員うちの会社インタビュー」とは コロナ禍で生活や社会の姿が大きく変わってきましたが、日本住宅基礎鉄筋工業会の会員企業も新しい時代に向けて一生懸命活動しています。こうした会員企業の現状や今後の目標などについて、“うちの会社”を代表者に語っていただきます。
昨年社長に就任されましたが、
西山 私は親和銀行(現十八親和銀行)の出身で、こちらに来る前は地域活性化の仕事を2年半くらいさせていただいた。その後福岡の医療機関に行くつもりだったのですが、コロナで行けなくなってしまった。「さて、困ったな」となったワケです。今当社の会長でもある佐世保港湾運輸の宗会長は銀行の先輩でもあったので相談したわけです。で、私は佐世保港湾運輸に入ったつもりでいたのですが、宗会長から「西日本鋼業という会社があって困っている。とりあえずそっちに行ってくれ」と、こちらに来る1週間くらい前に言われて来たのです。
全く知らない業界で何から始めましたか。
西山 銀行では融資方面や事業再生部門にもいたものですから、会社ではそういう目線でずっと見ながら、何とかしたいと思いまして、会社の改革じゃないですけれど、やり方をいろいろと変えてきました。まず資金繰りをよくするというところを手がけました。それをやりだしてから会社の業績も良くなりだして、過去10年間で売上・利益ともに過去最高をこの3年間で挙げさせてもらいました。まあ順調に来たのですが、ただ今期になって頭打ちにですね。銀行時代に色々な業態のお客様を拝見させていただき、支援をさせていただいたので、いわばその実践をこの会社でさせていただいたと思っています。
会社では、私は素人なんで突起拍子もないことを言ってみんなに「無理です」っていわれるのですが、みんなが頑張って一生懸命やってくれています。おかげで私が来てからお客さんも20件くらい増えた一方で、工場の方が疲弊してしまった。製造業というのは、急激な受注増はダメなんだなあと実感しました。残業時間が月に60時間を超えてしまって、それでどうしようかなと考えたときに、現場のローテーション制を始めたんです。
ローテーションというのは工場の2交代制とかですか。
西山 2交代ではなくて、各部の専属要員を部署を変えるなどの多能工化です。それで配送部門も内製化を進めた。新たに2年半で25名くらい採用したのですが、配送は配送だけじゃなくて、帰ってきたら工場に入り曲げ加工したりとか、その他の加工の応援をしてもらいました。そうすると、1年くらい経つと残業時間が20時間くらい減ってきたんです。若手が入社したというのもあったのでしょうが、みな頑張ってくれて同じ加工数でもそんなに残業せずできるようになった。
また、社員待遇についても変えました。20代から50過ぎの方まで採用したのですが、年齢を関係なく1万円ずつ給料を上げました。また私は年2回の賞与の時には会社の状況を社員に話していまして、会社が目標としている以上の利益が上がった場合は、社員に還元したいなあと思っていたので、2年前の決算賞与ではパートも部長も関係なく一律で1人10万円出しました。
福岡県の大牟田に工場を建設されていますが、どのような展開を目指していますか。
西山 うちのお客さんは基礎業者中心でオーダーメードの製品です。同じ基礎の伏せ図でも、基礎業者の方によっては、要求がいろいろあり、そういうものをさせてもらっている。営業的には、うちの拾い出しチームは女性陣が中心になっているので、基礎屋さんからの電話に丁寧に応対していることが、結構効果を発揮しています。長い時には、1時間位電話で話をしていますが、女性陣も慣れていて、夕方基礎屋さんから電話がかかってくると「お帰り」っていうのです。ですから営業については、私が出て行って営業するよりは、女性陣の対応で基礎業者さんから信頼を得ているので、一昨年、昨年も紹介中心で売上が伸びていった感じです。
大牟田の工場ですが、こちらは市場拡大という意味だけでなく、工場を大牟田と佐世保の二工場体制にして、大牟田は住宅関係、佐世保は港湾土木を含めたコンクリート二次製品とかの鉄筋加工とし、今までやりたくても出来なかった新たな仕事を少しずつ取っていきたいと思います。
また新しい分野も手掛けようかなと思っています。二つくらい候補が挙がっているのですが、どちらにしても加工の付加価値をつけるという形が必要ですね。ですから基礎関連でも、我々の仕事は住宅の完成予想スケジュールが分かるのが強みだと思いますので、今後の展開にそうしたことを利用できないかと考えています。
この3年間で住宅基礎ユニット鉄筋や再生棒鋼はどんな状況でしたか。
西山 年間50棟弱やっているようなところが、ぽつぽつ増えてきたこともあり、住宅基礎の生産量はかなり増えました。以前は月300トンくらいでしたが今は500トン超です。会社の体質を変えようと思いユニットの売上ウエイトをもっと上げたいと思っていたんですが、鉄筋製造部門の不景気のせいもあったようで、今は製造と加工では比率が逆転しています。それをやっていなかったら、今のような状況ではなかったと思います。市場がこんなに冷え込んで来ましたからね。
全体の業績は昨年から落ちてきていますが、特に製造の方が落ちました。ただ製造の方を見ると生産ラインの設備が古いままでやってきていた状況だったんです。いままでは、鉄筋加工の方に経営資源をシフトしていたのですが、今は製造の方に経営資源をかけています。
というのも再生棒鋼の製造部門で使う材料の入荷がなかなか厳しくなったのです。2020年くらいから発生材がぐっと減ってきたんです。発生材というのは造船の端材とかスクラップ業者からの鉄板等です。これまで、何故当社だけが残ってきたかというと、地元には三菱造船、大島造船、佐世保重工業があったんです。それが三菱造船はなくなり佐世保重工業も修繕しかしないので、うちの材料となる造船の端材、厚板が出なくなってきた。どこから調達するかとなれば一般スクラップになってしまう。スクラップは今関西方面からも仕入れています。コストアップになりますが、製造業ですので供給責任もあり絶やすわけにはいきません。
九州での住宅基礎ユニット鉄筋の市場を今後どのように見ていますか。
西山 全体的なパイの縮小は見えています。人口が減っていけば着工戸数も落ちてきますので、それは仕方がないかなと思っています。シェア的には、うちのやり方で行けばまだまだ増やせる余地はあると思います。現在、長崎県では一戸建てでは六割強くらいが当社のシェアです。ですから、あまり伸びる要素はない感じもしますが、まだまだ手組をされている地域もありますから、基礎業者さんからの横のつながりでいけば、少しは伸ばせるかと思います。また佐賀県でのシェアが大体三割くらいで、この3年間で10%くらい増えてきました。福岡県は市場が大きいので、うちは4~5%いくらいなので10%にするだけでも今の規模の倍近くはいくかなあという思いはあります。あとは月に数棟出荷している熊本県ですが、大牟田工場から対応が可能かなあと思っています。
グループの規模ははどれくらいですか。
西山 社員は全体で66人です。製造と加工の人数は大体半々です。20数名ずつです。事務所が約10名。今の時代は、上から言っても仕事をしないので、いかに若手がやる気で仕事が面白いなあと思ってくれる、自分自身から能動的に自発的にできる組織にしたいなあと思います。
売上は佐世保港湾運輸のグループ4社で45億くらいです。このうち西日本鋼業が22億ですから、親会社を抜きましたが、利益率ではまだまだですね。私自身は何とか5年くらいで目標を達成したい。親会社も銀行出身者が多いのですが、私もこの会社の中継ぎなので会社の将来を考えますと、やはり現場から役員になる人間を出したい。ある程度会社の新しい柱が出来てきたら、それを見てくれる30代の人が20年後に役員になれる会社にしていきたい。それまでが我々の仕事かなあと思っています。かつて銀行員として地域の経済を支えてきた人間ですから、やっぱり企業の継続、発展のために最後のお手伝いをしたいと思います。
最後ですが、工業会に一言お願いします。
西山 うちは基礎業者を中心にやっているので、ネットワークづくりをやっていきたい。ビルダーさんから「誰かおらんね?」とよく聞かれるので基礎屋さんとマッチングしています。基礎業界とのマッチング、紹介というようなものを組織としてやって行けないかと思います。そこに工業会のユニット基礎鉄筋を採用してもらう。工業会でそうした情報を共有できるようにしてもらいたい。後はユニットをどう普及させるかです。普及振興をお願いしたいと思います。
■会社プロフィール
本社・工場:佐世保市干尽町4番地の8
大牟田工場(5月開設):大牟田市四山町
年 商:22億円
従業員:66名。