10年前にファミマの法務部から大転身し養鶏関係、溶接金網、住宅基礎鉄筋とまったく畑違いの仕事に飛び込んだ。仕事と会社の特長や弱点を把握しながら厳しい市場でも成長できる付加価値の高い製品づくりを目指している。就任1年の実松社長に話を聞いた。

JHR会員うちの会社インタビュー 語る人
有限会社実松製作所・代表取締役 実松孝一郎 氏

実松社長
趣味はサッカー観戦とベトナムで始めたブラジリアン柔術で最近健康の為に再開したという。「J1のサガン鳥栖がいるので、スポンサーとしてユニホームの胸に会社の名前を出したい」という。44歳。
JHR会員うちの会社インタビュー」とは 
コロナ禍で生活や社会の姿が大きく変わってきましたが、日本住宅基礎鉄筋工業会の会員企業も新しい時代に向けて一生懸命活動しています。こうした会員企業の現状や今後の目標などについて、“うちの会社”を代表者に語っていただきます。

社長に就任されて一年ですが以前はどんな仕事をしていましたか。

実松 うちの会社とは全く違う業種で仕事をしていました。ファミリーマートの法務部に35歳までいました。実は大学を出てから司法試験の勉強をしてたんですが、とりあえず働こうと思って過払い金訴訟を扱う弁護士事務所で働いていたんです。当時過払い金業界はバブルでしたが、こんなところにいてもしょうがないなと思いファミリーマートに入ったんです。基本的な仕事はフランチャイズ契約や土地の賃貸借契約等をやっていました。

そして「帰れコール」で会社に戻ってきたということですが、入ってみてどうでしたか。

実松 ファミリーマートを辞めたのが2014年の10月で、そこから一年くらい修行に出され愛知の溶接金網の会社、新潟の養鶏関係の会社に半年ずつ行っていました。うちの会社の2本柱は養鶏関連製品とワイヤーメッシュです。基礎鉄筋の方は、新規事業として十数年前に始めたものですが、この2本柱の事業について外から1年間勉強しました。2015年の11月に何も分からない状態でふらっと戻ってきた次第です。
 会社では、私は一兵卒で始めた方がいいと思っていたのですが、社員の皆が私をどう呼んでいいか分からないということで、与えられたのが総務部長、すぐその後に常務取締役に落ち着きました。当時、社長から3年で会社のことを覚えろと言われました。総務・経理を1年、工場を1年、営業を1年やれみたいな話でしたが、うまくいく訳がないので、その隙間をうろうろしていたような気がしますね。
 また今までは社長の後を誰が継ぐのかという社員の皆さんの懸念があったようですが、そういう意味で私が入ったことで後継者が来たんだみたいな雰囲気は感じました。期待とも不安ともとれるような何とも言えない空気でしたね。うちの会長は二代目なんですが、創業者の祖父が80数歳まで社長を譲らなかった。うちの会長は今73歳ですが、社長になったときは50代半ばでしたので、そんな自分の経験もあって、後継者を育てるのであればある程度若いときにさせたいという考えがあったようです。それがタイミング的に昨年になったのかなあという気はしています。

会社の現状をどう見ていますか。

実松 元々は養鶏のケージから始まった会社で、そこそこのシェアを持ってきました。しかし畜産業界は波がすごい激しい業界で安定感がなかったので、ワイヤーメッシュや住宅基礎鉄筋に多角化をしていった経緯があります。その多角化がうちの特色であり強みなんです。JHRの会員企業でもかなり毛色が違う会社だと思います。うちの主な分野は養鶏、溶接金網、住宅基礎鉄筋、鉄工の仕事の4つですが、4つとも専業に比べると弱いのです。どの分野でもうちは弱小・アウトサイダー的な立ち位置になっていると感じています。そうすると、やっぱり一つ一つがもう少し強くならないと多角化の意味がなくなる。もう少し住宅基礎鉄筋を含めて、一本立ちしていきたいというのが今の課題です。
 それと、うちの会社は基本縦割りなので各事業部間の交流はなくはないのですが、仕事としてはきっかり分かれている。製品分野も違えば専門知識も違っていますので、助け合ってやろうと思っても出来にくいところがある。経営としてお金をかけるところも4倍だし、人の採用も4倍だしで、経営資源が分散してきたことが課題です。特に今は人材の問題です。私は10年会社を見てきて、この2つが大きな課題であると思っています。

仕事的にはどのような状況でしたか。

実松 住宅基礎鉄筋に関しては、私が入ったころというのは数量的に少なかったのですが、担当の人たちが本当に伸ばしてくれて、ずっと右肩上がりで来たと思います。今ちょっと踊り場で、もう一段階上がるためにもがいている感じです。私が入社したころは月50トンくらいでしたが、今は少ない月でも200トン~300トン、多い月になると400トン弱くらいになっています。それでも大きい会社に比べればまだまだなので、もっともっとやりたい。北部九州はプレーヤーが多いので需要があるはずです。まだまだいけると社員も私もそう思っています。
 溶接金網も北部九州はプレーヤーがすごく多くて、中国・四国地方からも入ってくる。そんな訳で一時期に比べたら溶接金網等は量産してやるというよりは、多品種・小ロットで対応できるようなお客さんに絞って結構やっています。一時期落ち込んだのですがまた安定してきて上向いてきています。工場では住宅基礎鉄筋の方が溶接金網より強くなってきています。
 養鶏関係では5年前にベトナムに進出をして、そっちが今生産のメインになってる状況です。日本の工場では納期対応とか数が少ないとか、そういうときの対応をメインにしています。
 養鶏関係では、今自社で施工を受けて工事することが少しずつ大きくなってきています。そういう意味では売上も伸びてきています。昔はケージだけでしたが、特定建設業を持っているので建築からやっています。ちょうど私が会社に入った時に特定建設業を取ったので、だんだんそういう仕事が大きくなってきたという印象があります。
 鉄工関係では自動車関係とか水産業系の台車とかパレットとかの製品です。あとはビニールハウス用ボイラーの油の貯蔵用とかのタンクを作っています。これらは良くも悪くも横ばいですね。うちはずっと畜産関係の仕事をしていましたから、JAさん等からいろいろ要望があり以前からやってきました。

今後の見通しとか、取り組むべき課題などについては。

実松 ジャンルにこだわらず施工が楽になる製品などの、お客さんのニーズに沿ったものを作る、考えるっていうのが大事だと思います。
 その中でうちは商売を広げて来たと思っているので、モノづくりの会社としては、また新しい何か世の中の役に立てるような製品を考えて行く義務があると思いますし、そうしていかなければいけないと思っています。
 工業会の皆さんのインタビューを見ても、うちのお客さんの要望にもあるのですが、「施工までしてほしい」というお話は良くいただきます。ただうちは今のところはそこまでやり切れていないというのが正直なところです。付加価値をつけていくんだとしたら、住宅基礎鉄筋の場合はそこになってくるのかなあと思います。うちは後発なので、他がやっていないことで基礎鉄筋を伸ばしていかなければいけないと思います。拾い出しも他の会社のシステムに対応して自動的に出せるようなものにするとか、工場の自動化では他所とちょっと違う色を出してやるとかしないと、業界に追いついていくのは厳しいなと思っています。
 住宅着工は減っていくと思いますが、ユニット基礎鉄筋の市場はメーカーさんも多く広がっているので、まだまだ自分たちが伸ばしていかなければいけないという今後の展望は持っています。
 そのためには先ず地元のシェアを固めることだと思います。市場を広げれば物流問題がでてくるので、今は地元の方々にいいものをリーズナブルに提供るするのが第一になってくると思います。
 住宅基礎の得意先は基礎屋さんがメインですので、ハウスメーカーの需要があったらもっと作りやすいのかなと思いますが、やみくもに広げるのは良いとは正直思っていないですね。
 養鶏分野はニッチ市場で難しいところがありますが、今後は工事部門も増やしていきたいです。溶接金網の方では付加価値の高い製品を開拓していきたい。また住宅基礎鉄筋では22ミリまで扱っていますが、もっと太いもので新しい技術を使ってやれるような製品がほしいですね。今後は人手も足りないので、線径が上がると当然付加価値も上がると思います。

今売上比率は部門別でどんな感じですか。

実松 養鶏関係は今年だと35~40%、住宅基礎鉄筋が30%くらい、溶接金網で2割弱、鉄工・製缶が10~15%くらいです。今後については、それぞれ均等に伸ばしていくのは難しいと思います。それぞれの市場にプレーヤーがいるので簡単に大きくはできないと思いますので、自分たちがどれだけ持ち味を出せるかです。基礎鉄筋はもうちょっと増やしたいと思います。
 売上については、日本の工場では住宅基礎鉄筋がメインで売上は一番あります。全体の売上高は、昨年が17億円7000万円、今期の設定が20億円ですが、住宅基礎鉄筋が今年は厳しいですから伸び悩んでいます。

工業会に対してご意見、ご要望があれば。

実松 勉強させていただく機会はあった方がいいと思います。新年会等の講演では専門的に内容を深く掘り下げていくのが難しいでしょうから、テーマを絞った形の勉強会などが欲しいと思います。また、せっかくいろいろな業者さんが集まっているのですから工場の生産方法とか、具体的な内容まで踏み込んだ所までやっていただきたいですね。皆さん色々ノウハウがあるでしょうから難しい部分もあるとは思いますが。

■会社プロフィール
本社・工場:佐賀県神埼市千代田町姉391-1
 関連工場:ベトナム・ドンナイ省 養鶏用ケージ等関連製造工場
年 商:17億7000万円。
従業員:60名。